2018/05/18

ヤマハとソニーの業績回復に見る「コーポレートガバナンスのあり方」

(写真=Sergey Nivens/Shutterstock)

「一億投資家時代」となった現在、ますます注目されているコーポレートガバナンス。前回配信された「プロの投資家が『コーポレートガバナンス』に注目する理由」では、その背景や社会的影響をお伝えした。それでは、これらによって日本企業はどのように変化したのだろうか。スパークス・アセット・マネジメントで投資信託の運用を手がける清水裕氏に、2つの事例を聞いてみた。

楽器事業への集中で業績を回復したヤマハ

――前回の記事で、日本企業が「規模より利益を追う」という目線に変わってきているとお聞きしました。具体的な事例などはありますでしょうか。

清水裕氏(以下、清水)/代表的なのは、楽器メーカーとして有名なヤマハ株式会社です。ヤマハは1980年くらいまで、楽器の製造・販売事業で成長してきました。楽器以外のビジネスが立ち上がってきたのは、1980年代からのことでした。

こうした多角化事業は、高度成長期の終わりから2000年くらいまでにかけて、軒並み赤字になってしまいました。それらを整理してようやく落ち着いてきたのが、2010年から2012年にかけてくらいの頃でした。

2013年に中田卓也さんが社長になられてからは、もう一度売上を上げていこうという機運が出てきました。具体的には、高いブランド力や機能に見合った価格をつけ、お客様に理解してもらおうという戦略を打ち出しました。
この戦略が成功し、もともと2~3%くらいだった営業利益率が、今では10%を超えるまでになりました。将来的にはこれを20%にしたいという目標を掲げるまでに、会社が根本から変わったんですね。

中桐啓貴氏(以下、中桐)/中田さんはどのようなキャリアを歩んでこられた方なのでしょうか。

清水/入社時から楽器部門の担当を歴任され、海外も経験されています。電子楽器の担当もされていたと伺いました。

中桐/自身のご経験から、楽器部門への集中をしていかなくてはならないと感じられたのかもしれませんね。

清水/そうですね。ヤマハはスポーツ用品や半導体の製造・販売に手を広げ、巨額の赤字を出したこともありました。こうした経験や楽器部門への愛着から、本来のヤマハブランドである楽器事業にフォーカスしたほうがいいという思いが強くなったのではないかと思います。

「自社にしかできないこと」がESG活動の軸になる

――個人的には「ヤマハリゾート つま恋(※)」の営業終了は残念でした。音楽の聖地として有名でしたよね。ESG活動という観点で言うなら、こうした事業のほうが社会貢献の要素は多いような気もするのですが。

(※)1974年に開業した、音楽ホールつきの宿泊・運動施設。同施設で70~80年代に開催されていた「ヤマハポピュラーソングコンテスト(ポプコン)」は、歌手の中島みゆきさんを輩出したことでも知られる。

清水/事業選択のポイントは「その会社にしかできないことかどうか」だと思っています。それによってどういう価値を生み出していくかが、非常に重要です。

楽器を普及させ、音楽を通じて人々の情操を豊かにする。そして子どもの人格形成に貢献するというのが、ヤマハの精神です。もちろん、つま恋のイベントも価値を生んでいたとは思いますが、こうした根本となる精神に比べると、付随的な事業だったのではないでしょうか。

今ヤマハが最も力を入れているのは、東南アジアでの音楽教室事業です。貧富の格差が大きい東南アジアでは、有料の音楽教室に通えない子どももいます。そこでヤマハは、公立の学校に楽器を提供し、音楽の先生を教育するという取り組みをはじめました。そこまでして、楽器のマーケットを広げようとしているのです。

これは、世界中から楽器のトップメーカーとして認識されているヤマハにしかできないことだと思います。こうした分野に集中していくことこそが、本当に評価されるべき企業のESG活動、CSR活動だと思っています。

――社会貢献のための活動とはいえ、前提には「資本を有益に使う」という姿勢があるわけですよね。経済的なリターンがあってのESG活動だということなのでしょうか。

清水/企業である以上、社会的活動が経済的価値に結びついているかどうかということは、とても大切な要素だと思うんですね。それが企業独自のストーリーになり、株主や一般の人たちの理解を得ることにつながるからです。また、ストーリーが明確であれば、現時点でESG活動が多少持ち出しになっていたとしても、先行投資として理解できます。

先ほどのヤマハの音楽教室事業で言えば、これから東南アジアの所得水準は上がっていくはずです。マーケットが立ち上がったときに、現地の人々の間に楽器に対する理解やヤマハがトップブランドだという認知が育っていれば、彼らはしっかりとした経済的ベネフィットを得られるでしょう。これは日本での音楽教室事業で実証済みです。

固定費削減で「面白いものづくり」を取り戻したソニー

――なるほど。2つめの事例についても、お聞かせいただけますでしょうか。

清水/2つめの事例は、電気製品の製造・販売をはじめさまざまな事業を展開するソニー株式会社です。ソニーはマネジメント体制が変わったことで、業績が非常によくなりました。

ソニーの業績は1998年3月期をピークに悪化し、その後も停滞が続いていました。2018年4月に吉田憲一郎さんが社長に昇格されましたが、改革が目に見えて進んできたのは、彼がソニー本体の執行役員になられた2013年末頃からでした。結果として、株価はボトムから5倍くらいになっています。

――長かった停滞の原因は、どこにあったのでしょうか。

清水/ひと言でいうと、それまでは合理的な経営がなされていなかったということなんだと思います。新経営陣が掲げているフレーズのひとつに「規模でなく違いを追う」というものがありました。

ソニーのアイデンティティは「みんなが憧れるような商品をつくる」というところにあったのだと思います。しかし停滞期のソニーはマスマーケットを狙った無難な商品開発に腐心し、これまでにないような尖った商品を出さなくなってしまった。会社の規模拡大に伴って膨らんだ固定費を回収するためには、そうするしかなかったのです。

これを問題視した新経営陣は固定費を削減し、商品を大量につくらなくても利益が出る体制に変えていきました。自社の精神であった「面白い商品づくり」をしていこうという方向に、会社全体が転換したのです。

――方向転換をしてすぐに結果が出たということは、従業員の方々の間には会社の精神が根付いていたということなのでしょうか。

清水/ええ、そう思います。創業者のひとりである井深大さんが「自由闊達として愉快なる理想工場の建設」を謳ってできたのが、ソニーという会社です。従業員の方々もそれに共感し、大切にされていると思うんですね。「いいものづくり」をとことん追求するという素地はあったのだと思います。新しい経営陣はそれをきちんと吸い上げて形にすることができたから、うまくいったんでしょうね。

――なるほど。新しい経営陣になってから、会社全体の風通しがよくなったということもあるのでしょうか。

清水/そうでしょうね。以前にソニーに訪問したとき、経営陣の方々に「ゲームの社会的価値は何だとお考えですか」と質問させていただいたことがあるんです。まさに議論がはじまったところだというお答えでしたので、私なりの考えをお伝えしたんですね。

そうしたら、彼らは一生懸命それをメモしはじめたんです。「ありがとうございます。吉田にも伝えておきます」ともおっしゃり、私は本当に驚きました。というのも、投資家の話を社長にそのまま伝える会社は珍しいからです。

おそらく経営陣の方々には「社長ならきっと聞いてくれる」という信頼感があったのでしょうね。そういう風通しのよさを強く感じました。以前のソニーにはなかったものだと思います。

(取材構成:大住奈保子)

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